2016年11月15日

No316 京都 七宝家並河靖之旧邸でベルギーの板ガラスに出会う


316 京都 並河邸.jpg

ここは京都・東山、平安神宮にほど近い白川沿いに建つ、七宝家の並河靖之の旧邸です。
並河靖之(弘化2年・1845−昭和2年・1927)は、明治・大正期に七宝焼きの名士として活躍し、国内のみならず3度もパリ万博に出品、数々の受賞を重ねて海外にもその名を知られました。

この旧邸は、職住一体として明治27年に構えた邸宅部分と工房跡です。
国の登録有形文化財に指定されており、現在は世界的コレクションとなっている靖之の七宝作品130点余り、それに下画、道具などを所蔵、展示する「並河靖之 七宝記念館」として公開されています。

316-2  京都 並河邸.jpg

邸内には主屋、旧工房、旧窯場をはじめ、京都市指定名勝に登録されている庭園があります。
近代日本庭園の先駆者とされる作庭家、七代目小川治兵衛(植治)の初期の作庭で、七宝の研磨に使用するため初めて個人の民家に琵琶湖疎水を引き入れたもので、余水は邸宅と園池を潤いの空間としています。

316-3  京都 並河邸.jpg

ハイライトは、この主屋内の応接間の造りです。
欧州など海外からの賓客を始め、七宝焼き買付けのために訪れる来訪者に日本庭園を楽しんでもらうため、背の高い外国人に合わせ、敷居から鴨居までの高さを六尺(約182cm)にするなど、当時の日本家屋よりも高くしてあるという事です。
一方、椅子に座ったままで庭園を見られるよう障子は板ガラスとし、目線の高さで引き回すなど、おもてなしと創意工夫に富んだ開放感いっぱいの造りとなっています。

316-4  京都 並河邸.jpg

説明にあたっているボランティアの人の話によると、邸宅の中に七宝焼きの工房や窯、庭園も設置し、そして主屋の鴨居の高さも、開放的なガラス障子の造作も、全ては日本の伝統美の中に海外からの客人を招き、七宝焼きの良さを理解してもらいたいという並河靖之の願いだったという事です。
またある意味、七宝焼きの海外輸出を円滑に進めるための戦略的意味合いもあったと言います。

316-5  京都 並河邸.jpg

そして私が驚いたのは、実はこの主屋の、ガラス障子の板ガラスです。
明治時代、我が国では一般民家での窓の板ガラス製造・使用はまだ行われておらず、(民家での板ガラス使用は大正年代に入ってから)、この板ガラスはわざわざベルギーから輸入したのだそうです。
1枚、1枚の板ガラスを見ていると、この板ガラスが明治時代、海外から訪れる訪問者に日本庭園を心ゆくまで楽しんでもらうためにベルギーから取り寄せたものだと知ると、並河靖之の並々ならぬ想いが伝わってきて、しばし立ち止まってしまいました。

ちなみにこのベルギー産の板ガラスですが、古くは戦後間もなく四国や関西方面に大きな被害をもたらした南海大地震や数々の地震・台風災害、近年では阪神大震災などにも耐え、今日まで1枚も割れていないということですから驚きです。

316-6  京都 並河邸.jpg

明治、大正、昭和、平成と、約120年もの長い間、異国の地で、戦禍や自然災害にもめげず京都の旧邸宅で生き続けるこのベルギー産の板ガラスに、大きな感銘を受けたことでした。

316-7-2  京都 並河邸.jpg

316-8  京都 並河邸.jpg

またこの旧邸宅には「通り庭」と呼ばれる土間があり、接客や調理も含めた家事の作業空間などが保存されていて、明治から伝わる京町家の暮らしの空間を直接肌で感じることが出来ます。

通いなれた京都で、明治の住宅・庭園の佇まいを今に伝える京都の文化遺産、暮らしの場を知り、またよもやその空間の中で、明治期に輸入されたベルギー産の板ガラスと対面することなど、夢にも思いませんでした。

こうした経験は、面々と受け継がれている地域文化を知ることでもあり、まさに "京都学" を学んだ、楽しいひと時でした。
こうした“知る喜び”こそ、旅の醍醐味ですね。

[ご参考]
 並河靖之 七宝家
  七宝技法の精緻さや豊かな色味が高く評価され、
  3度のパリ万国博覧会をはじめ、国内外で数々の受賞を重ねる。
  実業家、七宝家として1893(明治26)年に緑綬褒章、
  1896(明治29)年には帝室技芸員を受け、その地位を不動のものと
  した。

  【帝室技芸員】  
  戦前の日本で宮内省によって運営されていた、 美術家や工芸家の
  顕彰制度
  優秀な美術家・工芸家に帝室からの栄誉 を与え、保護と奨励、発展を
  図った。

[撮影データ]
  〇「並河靖之 七宝記念館」(旧邸宅・工房跡)
  〇平成28年9月28日撮影

 *本記事は、「並河靖之 七宝記念館」で入場時に渡される
  公式パンフレット、及び敷地内各所の説明ボード内容、
  また敷地内でボランティア活動を行っている説明員の説明をもとに、
  所感も交えて構成しました。

posted by 特急高尾号 at 11:19| Comment(2) | 街角アラカルト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
京都にはまだまだ知らない奥深い世界があるな、と感じました。
今度行ってみます。
Posted by 旅好き at 2016年11月24日 22:28
旅好きさま
お便り、ありがとうございます。
少しでもご参考になれば、幸いです。たびは、楽しいですね。

Posted by 特急高尾号(コメント返信) at 2016年11月24日 22:36
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。